契約が決まらなかった時の会社に戻るまでの時間は、刑務所に連行されるような感覚で、
そして会社に戻ってから営業部のドアをあける瞬間、あの時は私にはいつも鉄の扉をあけるような思いだったのを覚えております。
~「大阪店長の脱サラ日記・その4」のつづき~
東方面に出張の際は決まって東京駅の八重洲口にある立ち食い蕎麦で食事をすることが習慣となっておりました。
会社に戻ると、いつもの営業フロア。
ただ商談に行って契約をもらえなかった時に入る営業フロアは、なんとも言えない空気間で、なぜか敏感に反応するものでした。
同期、先輩、上司、上長、役員に内勤の人間の心の声が聞こえてくるような感覚です。
たんなる自分の被害妄想なのかもしれませんが、営業をされている方、されていた方ならなんとなく共感して頂けるのではないでしょうか。
「また、ハズしてきた。」
そんな声が聞こえてきそうな雰囲気で、またいつも通りにネタ帳というものを開けては上から順番に電話していきます。
そして休憩時間に喫煙所で一服していた時のこと、
昨日、商談で埼玉の深谷でお会いした方から電話がかかってきました。その時の私は「すみません」という言葉がまず出てきて最終、嫁に反対されたのでという断りが飛んでくると思い、マイナスに考えて、おそるおそる電話に出ました。
すると、「嫁さんにはお小遣いの範囲でするなら勝手にしたらと言われました。」という内容で、青天の霹靂とはこのことだと思いました。
早速、日取りを決めにかかりました。
そして、上司にも先日お会いしたお客様ですが再アポ(再度、アポイントをとること)になりましたと告げ、再び埼玉の地に降り立ちました。
時期は6月。ニュースでもよく日本で一番、暑くなる県として有名な埼玉。6月とはいえ、スーツまで汗が染みてきているのがわかりました。
ついに念願の初契約かも!?と疑心暗鬼になって待ち合わせ場所にて先方が来られるのを待ちます。
上司もあとから来られて合流し、再度、物件の概要や資金計画などお伝えし、相手の反応をうかがいました。
すると先方は一言、「わかりました。」と言い放ちました。
私は「やった!」と心の中でガッツポーズをした瞬間、「ただ、一つだけ危惧していることがあります。」と言ってこられました。
何でしょうか?とお聞きすると、「投資用のマンションなので賃貸にだして、入居者さんの家賃で支払っていくという内容は理解できました。ただ入居者さんがずっと着いていればという話なので、空室になった時の負担を考えると、私の小遣いだけでは賄えないなと思いまして」という内容でした。
それに対して、上司は「サブリース契約というものがあります。」答えました。
主に家賃を保証する契約のことです。
空室になった際はその契約に移行すれば家賃収入が滞ることがないということで、危惧されていた内容を払拭して頂けたと同時に
「わかりまして。それでは御社を信用して、お任せします。」
ついに申込です。
私はこの時、申込を頂けたこと、初めてサラリーマンとして成果をあげたこと、全てにおいて、信じれなかったことを覚えております。
お申し込みを頂いたお客様を見送ったあとは、上司に「やったな!」と力強く握手されました。
すると上司は私の顔を見て「なんや、嬉しくないんか」と言いました。
「なんか信じれなくて、もしかしたらやっぱりやめときますという断りがくるじゃないかとか思いまして。」と答えると
「大丈夫や!、あの快諾して頂いた時の様子から、断りはこない。」と私にはわからない、経験値のある上司の言葉でやっと、私自身も初めて契約をあげたんだと認識できるようになりました。
その日の夜は忘れもしません。
深谷ネギの食べられる郷土料理のお店にいき、上司のおごりでキャバクラを梯子して、マッサージをしてもらい、最後はデリヘルを呼び、
大阪から離れた埼玉という土地で、生まれて初めてのまさかの豪遊でした。 ~つづく~
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